第9章 禪院直哉
【甘い物】
「甘いもん、好きやろ?」
直哉は、紅茶に角砂糖をひとつ落とした。
「ありがとうございます」
素直に受け取ると、直哉は鼻で笑う。
「ほんまに警戒心ない女やな」
「直哉さんが淹れてくれたんですから」
その一言に、直哉の手がぴたりと止まる。
「…アホ」
照れ隠しのように悪態をつきながら、直哉も紅茶を口に運んだ。
「美味しいです」
「せやろ」
得意げな横顔に、思わず笑みがこぼれる。
「何や」
「いえ、優しいなって」
その瞬間、直哉は眉をひそめた。
「優しい?」
直哉は椅子から立ち上がると、ロロの顎を指先で軽く持ち上げる。
「勘違いしたらあかん」
逃がさないように視線を絡めながら、口元だけで笑った。
「俺は優しいんやない。ロロが俺以外を見るんが気に食わんだけや」
甘い声。けれど、その奥には鋭い棘が隠れていた。
「他の男に笑うな。俺以外から貰うもんは受け取るな。俺以外を頼るな」
命令ばかりなのに、不思議と拒めない。
「そんな顔すんな」
直哉はロロの髪をひと房すくい、口づけるように額へ触れた。
「飴だけ食わせても飽きるやろ」
耳元で低く笑う。
「恋いうんはな、あま〜いお砂糖に、毒をひとさじ混ぜるくらいが一番離れられへん」
独占欲も、嫉妬も、意地悪も。全部まとめて差し出される。
「せやから覚えとき。俺に甘やかされる代わりに、他の男の優しさは忘れろ」
そう言ってロロの手を握る。その手は温かい。だけど、その温もりは檻の鍵でもあった。ロロはきっと、その毒が甘いことを知りながら、今日も直哉の隣を選んでしまうのだ。