第9章 禪院直哉
【死に戻り】
目を覚ますたび、季節は春に戻る。禪院家の庭。ロロが初めて禪院直哉と出会った日だった。
「…また」
何度繰り返したかわからない。どの未来でも、直哉は最後に死ぬ。あなたが庇っても、運命を変えようとしても、必ず。
「ぼさっと突っ立っとるな」
いつものように傲慢な声。
「邪魔や」
「…おはようございます」
何も知らない直哉は、いつも通り尊大だった。何度も腹が立った。何度も言い返した。それでも、その横顔が二度と見られなくなる未来を知っているから、嫌いになれなかった。
「直哉様、今日は外へ出ないでください」
「はぁ?」
「お願いします」
頭を下げても、直哉は鼻で笑う。
「命令すんなや」
「命令じゃありません」
「ほな聞く理由もあらへんな」
そう言って歩き出す背中を見て、ロロは叫んだ。
「死ぬんです!今日、直哉様は死ぬんです!」
静まり返る廊下。直哉はゆっくり振り返ると、冷たく笑った。
「…頭でも打ったんか」
誰も信じない。今までの世界もそうだった。何度目かもわからない繰り返し。ロロはもう諦めかけていた。
「今回も無理か…」
小さく漏らした瞬間。
「何が無理なん?」
前から声がした。顔を上げると、直哉が腕を組んで立っている。
「最近のお前」
「…え?」
「俺が死ぬ言うて、毎回泣きそうな顔しとる」
心臓が跳ねた。
「毎回…?」
直哉は眉をひそめる。
「お前見とると妙な既視感があんねん」
ロロは堪えきれず涙を流した。
「もう嫌なんです。何回やっても助けられなくて…」
直哉はしばらく黙ると、小さく舌打ちした。
「しゃあないな」
「え…?」
「そこまで言うなら、1回くらい運命とやらに喧嘩売ったる」
傲慢な笑みを浮かべる。
「俺は禪院直哉や。死ぬ未来が決まっとる言われて、はいそうですかで終わる男ちゃう」
その一言だけで、何度も絶望した世界が、初めて違って見えた。