第9章 禪院直哉
【桜】
「桜なんぞ、毎年咲くもんや」
満開の桜並木を前にしても、直哉は興味なさげに鼻で笑った。
「でも綺麗だよ?」
ロロが嬉しそうに見上げると、直哉はため息をつく。
「綺麗なんは桜やない」
「…え?」
「ロロや」
あまりにも当然のように言われて、思わず足を止める。
「そんな顔すんな。自覚ないんか?」
直哉は口角を上げると、ロロの顎を指先で軽く持ち上げた。
「桜見に来た男どもがロロを見とる。気に食わん」
「見てないよ」
「見とる。俺が言うとるんやから間違いない」
反論する隙もない。直哉はロロの肩を抱き寄せ、自分の腕の中へ閉じ込めた。
「今日のロロは俺のもんや。余所見する必要あらへん」
「そんな言い方…」
「何が悪い。欲しいもんは手に入れる。離したくないもんは離さん。それだけや」
風が吹き、桜吹雪が2人を包んだ。その中で直哉はロロの髪に落ちた花びらを払う。
「桜が主役みたいな顔しとるけど、今日は違う」
「違うの?」
「ああ」
直哉はゆっくり笑う。
「桜はロロを引き立てる背景や。それ以上でもそれ以下でもない」
あまりにも傲慢な物言い。呆れて笑うロロに、直哉は満足そうに目を細める。
「笑え。その顔は俺だけに見せとけばええ」
「無理だよ」
「無理やない」
直哉はロロの手を握ると、そのまま自分の指を絡めた。
「来年も、その先も花見は俺と行く。他の誘いは全部断れ」
「勝手に決めないで」
「決める。ロロは俺の隣がお似合いや」
ロロが照れて黙ると、直哉は勝ち誇ったように笑った。
「その顔や。結局、ロロは俺に甘い」
舞い散る桜の中、直哉は誰の視線も気にせずロロを引き寄せる。
「覚えとけ。桜は散る。でも俺がお前を手放すことは、一生あらへん」