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短編

第9章 禪院直哉


【遺言】


「遺言?」

ロロが笑って聞き返すと、直哉は心底下らないと言いたげに鼻で笑った。

「誰が死ぬ言うた?」

「だって、急に呼び出すから…」

「勘違いも大概にせえ」

直哉は腕を組み、ロロを見下ろす。

「俺は禪院直哉や。そう簡単に死ぬ男やない」

その傲慢さは、いつも通りだった。それでも直哉は珍しく言葉を続ける。

「せやけど、万が一っちゅうもんがある」

「…」

「その時は遺言や」

ロロは息を呑む。直哉は退屈そうに髪をかき上げ、当然のように言った。

「ロロ、他の男とくっつくな」

「え?」

「聞こえへんかったか?一生や」

あまりにも身勝手な言葉に、思わず目を丸くする。

「そんなの勝手すぎる!」

「勝手で結構」

直哉は一歩近づき、ロロの顎を軽く持ち上げた。

「俺のもんやろ、ロロは」

「…直哉」

「俺がおらんようになっても変わらへん」

その瞳には、揺るぎのない自信と独占欲だけが宿っていた。

「毎日俺のこと思い出せ。俺以上の男なんかおらんのやから、どうせ忘れられへん」

「そんな言い方…」

「事実や」

迷いなく言い切る。そして、少しだけ目を細めた。

「せやから遺言は1つ」

直哉はロロの額を指で軽く小突く。

「俺以外を好きになるな」

あまりにも傲慢で、自分勝手で、救いようのない命令。それなのに最後だけ、誰にも聞こえないくらい小さな声で呟いた。

「…俺のもんのままで、おってくれ」

その一言だけが、直哉の隠しきれない執着を物語っていた。
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