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短編

第8章 七海建人


【劣等感】


「…七海さんは、どうして私なんかを好きでいてくれるんですか?」

夜の静かな部屋。ぽつりとこぼした言葉に、七海は読んでいた本を閉じた。

「どうして、とは?」

「だって、私には何もないから。七海さんみたいに強くないし、冷静でもない。すぐ落ち込むし、自分に自信もない」

言葉にするほど、自分が嫌になる。

「こんな私のどこが好きなんですか」

しばらく沈黙が落ちた。怒らせたかもしれない。そう思った瞬間、七海の手がそっとロロの頬に触れた。

「…ロロは、いつもそうですね。ロロは自分に厳しい。私が好きだと言っている部分まで、ロロ自身が否定してしまう」

「でも…」

「でも、ではありません」

珍しく少しだけ強い声。

「私は、完璧な人間を愛しているわけではありません。失敗して落ち込むロロ。不安で眠れない夜を過ごすロロも。誰かのために泣ける優しいロロも」

1つずつ、大切なものを数えるように言葉を紡ぐ。

「全部、私が好きになったロロです」

胸がいっぱいになって、涙がこぼれる。

「…劣等感だらけなのに」

「ええ」

「面倒くさいですよ」

「知っています」

即答されて、思わず笑ってしまう。

「そこは否定してください」

七海は少しだけ笑った。

「面倒なところも含めて、放っておけないと思ったんです」

その言葉があまりにも七海らしくて、涙がまた溢れる。

「七海さん」

「はい」

「私が自分を嫌いになりそうな時も、好きでいてくれますか」

七海は迷わず答えた。

「もちろんです。ロロが自分を信じられない日でも、私はロロを信じています」

「…ずるいです」

「何がですか」

「そんなこと言われたら、もっと好きになります」

七海は少し照れたように目を逸らした。

「それは困りました」

「困るんですか?」

「ええ。これ以上好きになられると、私もロロを甘やかしてしまいますから」

「もう十分甘やかしてます」

「そうですか」

七海は穏やかに微笑む。

「なら、これからも続けます」

欠けたところも。嫌いなところも。全部抱えたままのロロを。七海は、変わらず大切そうに見つめてくれていた。
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