第8章 七海建人
【ズボラ女子】
「…これは、なかなかですね」
玄関を開けた七海は、思わず言葉を失った。脱ぎっぱなしの靴、ソファに積まれた服、テーブルには読みかけの本とお菓子の袋。
「ご、ごめん! 片づけようとは思ってたんだけど…」
「思っていただけで、実行はしていない、と」
図星だった。
「忙しかったし…」
「忙しいのは私も同じです」
淡々と返しながら、七海は腕まくりをした。
「掃除を始めます」
「いやいや、私がやる!」
「ロロ1人では日が暮れます」
その一言に、ぐうの音も出ない。七海は床に散らばる物を種類ごとに分け、ロロにも箱を渡した。
「服はここ。本は棚。迷ったら聞いてください」
「は、はい…」
仕事の指示のように的確で、気づけば部屋はどんどん片づいていく。1時間後。見違えるほど綺麗になった部屋を見て、
ロロは目を丸くした。
「すごい…」
「維持してください」
「努力します」
「努力では困ります。実行してください」
ぴしゃりと言われ、肩を落とす。そんなロロを見た七海は、小さく息をついた。
「ロロは完璧を目指すから、面倒になるのでしょう。5分だけ片づける。それを毎日続ければ十分です」
「…怒らないの?」
「怒って解決するなら苦労しません」
そう言って、七海は珍しく柔らかく笑う。
「ズボラなところも、ロロらしさです。ただ、あなたが暮らしやすくなる手伝いなら、いくらでもします」
その優しい言葉に胸が熱くなる。
「じゃあ、また散らかったら?」
七海は少しだけ呆れたように眉を上げた。
「その前に呼んでください。一緒に片づけます」
厳しいようで、最後は必ず隣にいてくれる。そんな七海の優しさに、ロロは次こそ頑張ろうと心から思えた。