第7章 狗巻棘
【線香花火】
任務を終えた夜、高専の中庭は昼間の暑さが嘘のように静かだった。
「狗巻先輩」
呼びかけると、振り返った狗巻が「しゃけ」と優しく返事をする。
「これ、一緒にやりませんか?」
袋から取り出したのは、任務の帰りに買った線香花火。狗巻は少し目を丸くしてから、小さく笑って頷いた。2人で並んでベンチに腰を下ろし、同時に火をつける。じりっ、と火が移ると、小さな火玉が生まれ、金色の火花が夜へこぼれ落ちた。
「きれい…」
思わず見惚れるロロの横で、狗巻も線香花火を見つめている。
「勝負しませんか?」
そう言うと、「しゃけ」と楽しそうに頷いた。ぱち、ぱち、と静かな音だけが響く。どちらも息を止めるようにして火玉を見守る時間は、不思議なくらい心地よかった。やがて、ロロの火玉が小さく震え、ぽとりと落ちる。
「あ、負けちゃいました」
悔しそうに笑うと、まだ燃えていた狗巻の線香花火も、次の瞬間には火玉が落ちた。
「え?」
風は吹いていない。見上げると、狗巻が照れたように視線をそらしていた。ほんの少しだけ、持つ手を揺らしたのだと気づく。
「わざと負けたんですか?」
「おかか」
その短い言葉が、「引き分け」と言っているようで、胸が温かくなる。
「優しいですね」
そう笑うと、狗巻は困ったように笑い返し、そっと私の頭を撫でた。驚いて目を瞬かせると、柔らかな眼差しがぶつかる。言葉なんてなくても、その瞳だけで十分伝わってきた。帰ろうと立ち上がると、狗巻はロロの袖を軽くつまむ。振り向いたロロへ、少し照れながら手を差し出した。ロロはその手を握る。指先から伝わる温もりは、さっきまで咲いていた線香花火よりもずっと温かくて、消えそうになかった。