第7章 狗巻棘
【壁ドン】
任務帰りの高専は、驚くほど静かだった。廊下を歩いていると、壁にもたれた狗巻と目が合う。
「しゃけ」
優しく手を振る狗巻に、ロロは笑って駆け寄った。
「待っててくれたの?」
問いかけると、照れたように頷く。その仕草だけで胸が温かくなった。
「じゃあ、一緒に帰ろっか」
隣を歩こうとした瞬間、手首をそっと掴まれる。
「え?」
そのまま軽く引き寄せられ、背中が壁についた。トン。ロロの顔のすぐ横に狗巻の手が置かれる。壁ドンだ。近すぎる距離に息をのむ。
「棘、近い…」
それでも狗巻は離れない。真っすぐロロを見つめる。やがて狗巻は、自分の胸を指さし、それからロロへ。
「しゃけ」
「…私?」
小さく頷く。さらに両手で大きなハートを作るような仕草をして、照れ笑いを浮かべた。思わず笑ってしまう。
「そんなに分かりやすく伝えてくれるの?」
頬を赤くした狗巻は、恥ずかしそうに視線を逸らした。その姿が可愛くて、胸が締めつけられる。
「私もね」
ロロは狗巻の制服の袖をぎゅっと掴む。
「棘が好き」
その一言に、狗巻は目を見開いた。信じられない、という顔をしたあと、ふわっと笑う。いつもの穏やかな笑顔より、ずっと幸せそうだった。狗巻は壁についていた手を下ろし、ロロの手を包み込む。指を絡めるように恋人つなぎをする。
「しゃけ」
その声は小さいのに、愛しさが溢れていた。
「これからは、遠慮しなくていい?」
ロロが尋ねると、棘は何度も頷く。
「ふふっ」
「しゃけ?」
「棘って、かっこいいのに可愛い」
そう言われた狗巻は耳まで真っ赤になり、困ったように笑う。その反応が愛おしくて、ロロはそっと狗巻の手を握り直した。夕焼け色の廊下には、照れ笑いを浮かべる恋人たちだけ。交わした言葉は少なくても、お互いの「好き」は、誰よりも確かに伝わっていた。