第7章 狗巻棘
【世界一周】
「地球一周旅行がしたい」
放課後、談話室にあった地球儀を抱えながらロロが言った。狗巻はジュースを飲む手を止める。
「しゃけ?」
「世界中を見て回るの。楽しそうじゃない?」
ロロは地球儀をくるくる回した。
「イタリアでピザ食べて、フランスで美術館行って、エジプトでピラミッド見て…」
話せば話すほど楽しくなってくる。狗巻は黙って聞いていた。
「オーロラも見たいし、砂漠も見たいし、南極も行きたい」
「おかか」
「欲張りかな」
狗巻は首を横に振った。ロロは笑いながら地球儀を回す。
「でも一人じゃ寂しいんだよね」
ぽろりと漏れた本音だった。すると狗巻は立ち上がり、ロロの隣へ来る。
「しゃけ」
そして地球儀の上に指を置いた。日本。次にアメリカ。ヨーロッパ。アフリカ。ゆっくり指を滑らせる。まるで、ロロが話した旅路をなぞるみたいに。
「全部?」
ロロが尋ねると、狗巻は迷わず頷いた。
「しゃけ」
「一緒に?」
また頷く。ロロは思わず吹き出した。
「世界一周って大変だよ?」
「しゃけ」
「飛行機もいっぱい乗るよ?」
「しゃけ」
「私、方向音痴だよ?」
そこだけ少し間が空いた。狗巻は真顔になる。
「…おかか」
どうやらそこだけは本気で心配らしい。
「ひどい!」
ロロが抗議すると、狗巻は肩を震わせて笑った。珍しく声を出さずに笑う姿に、ロロもつられて笑う。しばらくして。ロロは地球儀を回しながらぽつりと言った。
「いつか本当に行けたらいいな」
その言葉に、狗巻は少し考える。そして、ロロの袖を軽く引いた。
「ん?」
狗巻は地球儀ではなく、ロロ自身を指差した。それから自分を指差す。最後に親指を立てた。
「一緒なら、どこでも楽しいってこと?」
狗巻は照れくさそうに目を逸らしながら頷く。世界中の絶景よりも。有名な観光地よりも。隣で笑う相手の方が大事だと。言葉にしなくても、十分伝わっていた。ロロが、ありがとうと笑うと、狗巻も耳を赤くしながら小さく笑った。