第7章 狗巻棘
【アイドル】
ロロと狗巻は、幼い頃からずっと一緒だった。昔からロロはよく笑う子で、転んでも泣きながら笑って、失敗しても次はできる!と言って前を向く。そんなロロを、狗巻はいつも少し離れた場所から見守っていた。そして成長した二人。狗巻は、呪術師に。ロロは、人気アイドルであり、呪術師になった。表では、何万人もの前で歌う存在。裏では、人知れず呪霊と戦う存在。普通なら両立できないような2つの道を、ロロは歩いていた。
ある夜。任務を終えたロロが高専へ戻る。
「棘…」
ロロの疲れた声に、狗巻はすぐ振り向いた。
「しゃけ」
いつもなら笑顔で返すロロが、今日は少しだけ元気がない。狗巻はすぐに気づく。テレビで見る完璧な笑顔ではない。狗巻だけが知っている、本当の顔。
「…今日の任務、ちょっと怖かった」
ロロがぽつりと言う。アイドルとしては弱音を吐けない。呪術師としても、弱いところを見せられない。でも、狗巻の前だけは違った。狗巻は何も言わず、ロロの隣に座る。そしてそっと、自分の制服の袖を差し出した。昔から変わらない。泣きそうな時は、いつもこうしてくれた。ロロは小さく笑う。
「棘って、本当に変わらないね」
「しゃけ」
「私が有名になっても?」
「しゃけ」
「アイドルになっても?」
「しゃけ」
迷いのない返事。ロロは少し目を伏せる。
「…私ね、みんなには憧れって言われるけど。棘の前だと、ただの私でいられる」
狗巻は優しくロロを見る。何万人がロロを応援していても。何千人がロロを褒めても。狗巻だけは、昔から知っている。泣き虫で、負けず嫌いで、誰より優しいロロを。ロロは小さく笑って、狗巻の肩に寄りかかる。
「明日のライブ、来てくれる?」
狗巻は頷く。
「しゃけ」
「じゃあ約束ね」
ロロが小指を差し出す。子どもの頃から何度もした約束。狗巻は少し照れながら、小指を絡めた。アイドルでも。呪術師でも。幼馴染でも。2人の関係だけは、昔から何も変わらない。