第6章 乙骨憂太
【うたた寝】
春風がレースのカーテンをふわりと揺らす。窓から差し込む柔らかな日差しに包まれた午後。ソファで本を読んでいたロロは、いつの間にかページをめくる手を止め、こくりと舟をこいでいた。
「…眠い?」
聞き慣れた優しい声に、ゆっくりと目を開ける。そこには、読みかけの本を閉じながら微笑む乙骨がいた。
「ごめん、寝ちゃってた」
「謝らなくていいよ」
乙骨は穏やかに笑う。
「春って、眠くなる季節だからね」
あなたが小さく笑うと、乙骨もつられて笑った。
「ロロが安心して眠ってくれてるのを見ると、なんだか嬉しいんだ」
「どうして?」
「僕の隣が、安心できる場所なんだって思えるから」
まっすぐな言葉に、胸がじんわり温かくなる。乙骨はおいでと静かに手を差し出した。ロロが手をとると、肩がそっと触れ合う。窓の外では、小鳥のさえずりが聞こえ、校庭の桜が風に揺れていた。
「今日は予定もないし、もう少しだけゆっくりしようか」
「でも、眠っちゃうよ?」
「眠ったら、そのぶん僕が春を見てるから。起きたら、一緒に散歩しよう」
その約束に頷くと、ロロのまぶたはまたゆっくり閉じていく。乙骨は起こさないよう静かに本を開き、ときどき穏やかな眼差しをロロへ向ける。春の陽だまりの中、規則正しい寝息が聞こえるたび、乙骨は小さく微笑んだ。
「…おやすみ」
誰にも聞こえないくらい小さな声でそう呟いて、眠るロロが風邪をひかないよう、そっと膝掛けを肩までかけ直す。おだやかな春の午後は、2人のゆっくり流れる時間を、やさしく包み込んでいた。