第5章 伏黒恵
【四葉のクローバー】
放課後。校舎裏の芝生にしゃがみ込んで、ロロは黙々とクローバーを探していた。
「…ないなぁ」
三つ葉ばかり。それでも諦めずに葉をかき分けていると。
「あ」
小さな緑の葉が、四枚。
「見つけた!」
思わず笑顔になる。そこへ、伏黒が通りかかった。
「何してんだ?」
「四葉のクローバー探してたの」
「四葉?」
伏黒もしゃがみ込み、ロロの手元を覗く。
「これ」
「…本当に四枚あるな」
「でしょ?」
ロロは嬉しそうにクローバーを眺めたあと、伏黒へ差し出した。
「はい。恵にあげる」
「…俺に?」
「うん。幸運のおすそ分け」
伏黒は少し黙った。
「ロロが見つけたんだから、ロロが持ってろよ」
「私はまた探せばいいもん」
「そういう問題じゃー」
言いかけて、伏黒は小さく息を吐く。そして、ロロの手からクローバーを受け取った。
「…ありがと」
「ふふ。大事にしてね」
「ああ」
その返事が妙に真面目で、ロロは嬉しくなった。
「ねえ、恵。四葉って、幸運を運んでくれるんだよ」
「知ってる」
「じゃあ、恵にいっぱい幸せが来るね」
伏黒は少しだけ目を伏せた。
「…もう来てるだろ」
「え?」
「…なんでもない」
「気になる!」
「気にすんな」
歩く速度を少しだけ速める伏黒。ロロが慌てて追いかける。
「待ってよ!」
「置いてくぞ」
「待ってってば!」
追いついたロロが隣に並ぶと、伏黒は何も言わず歩幅を合わせた。その手の中には、さっきの四葉のクローバー。
そして翌日。ロロが教室に入ると、机の上に小さな押し花が置かれていた。
「…四葉?」
昨日渡したものと同じ形。驚いて振り返ると、伏黒が少し離れた場所に立っている。
「これ、どうしたの?」
「昨日、押し花にした」
「恵が?」
「…悪いかよ」
ロロは嬉しそうに笑った。
「ううん。すごく嬉しい」
その言葉を聞いた伏黒は、ほんの少しだけ口元を緩める。
「なら、よかった」
机の上の四葉は、昨日より少し小さくなっていた。それでも2人にとっては、忘れたくない幸運の印だった。