第5章 伏黒恵
【生姜に合うもの】
「恵、生姜に合う食べ物って何だと思う?」
休日の夕方。買い物帰りにロロが尋ねると、伏黒は買い物袋を持ち直しながら答えた。
「豚肉」
「やっぱり生姜焼き?」
「ああ。あと鶏肉、鮭、豆腐」
「詳しいね」
「料理すると覚える」
その一言に、夢主はぱっと笑った。
「じゃあ今日は生姜焼きにしよう!」
寮に着くと、2人でキッチンに立つ。ロロが豚肉を並べ、伏黒は黙々と生姜をすりおろしていく。
「恵、手際いいね」
生姜をすり終えるとロロの前にそっと置いた。
「焦がすなよ」
フライパンから立ち上る香ばしい匂いに、2人のお腹が同時に鳴る。
「…聞こえた?」
「お互い様だ」
食卓には、生姜焼きと豆腐の味噌汁、炊きたてのご飯が並んだ。
「いただきます」
ロロが期待を込めて見つめると、伏黒は一口食べて小さく目を細めた。
「…うまい」
その一言だけで十分だった。
「よかった!」
嬉しそうに笑うロロを見て、伏黒も口元を少し緩める。
「生姜、入れすぎじゃなかった?」
「ちょうどいい」
「本当?」
「ああ。ロロが作る飯は安心する」
不意の言葉にロロは箸を止めた。
「そんなこと言われたら、毎日作りたくなる」
「毎日でいい」
伏黒は照れたように視線を逸らし、ご飯を口へ運ぶ。
「飽きない?」
「飽きるわけない」
短く言い切るその声は、どこまでも真剣だった。食後、食器を洗いながらロロは笑う。
「やっぱり生姜に一番合う食べ物は豚肉だね」
「そうだな」
「でも私が一番好きなのは、恵と食べる生姜焼き」
伏黒は少しだけ驚いたあと、照れ隠しに小さく息をついた。
「…俺も、生姜焼きも好きだけど」
ロロの手をそっと握る。
「一番好きなのは、ロロといただきますを言える毎日だ」
生姜の香りが残る温かな食卓で、ロロは幸せそうに笑い、握り返した手をもう離さなかった。