第5章 伏黒恵
【寝顔】
夜更けの部屋には、時計の針が進む音だけが静かに響いていた。任務から帰ってきた伏黒は、「少しだけ休む」と言ったきり、ロロの隣で眠ってしまった。規則正しい寝息。長いまつげ。少し乱れた黒髪。普段は感情を表に出さない伏黒の寝顔は、驚くほど無防備だった。思わず頬にかかった前髪をそっと払うと、伏黒は目を覚まさないまま、ロロの手を探すように指先を動かした。そして、そのまま指を絡める。
「…恵?」
小さく名前を呼んでも返事はない。眠ったままなのに、握る力だけが少し強くなる。まるで「ここにいて」と伝えているみたいで、胸が温かくなった。ロロが微笑みながら隣へ寄ると、伏黒は無意識のまま額をあなたの肩へ預ける。
「…安心する」
かすれた寝言が耳元に落ちる。その一言だけで、疲れを隠していた伏黒の本音が伝わってきた。
「ずっと隣にいるよ」
そう囁くと、伏黒の表情がふっと柔らかくなる。しばらくして目を覚ました伏黒は、繋いだままの手に気づいて目を丸くした。
「…悪い」
「全然」
「寝てる間のこと、忘れてくれ」
照れたように視線を逸らす横顔が可愛くて笑うと、伏黒は小さくため息をつく。
「…笑うな」
そう言いながらも、今度は眠っていた時よりもしっかりとロロの手を握り直した。
「離す気ないからな」
ぶっきらぼうな一言なのに、耳は少し赤い。ロロが「私も」と答えると、伏黒は照れ隠しに視線を逸らしながら、小さく笑った。その手は、夜が明けるまで一度も離れることはなかった。