第5章 伏黒恵
【影踏み】
「恵、影踏みしよう」
夕日に照らされたアスファルトには、2人の影が長く伸びていた。
「急だな」
「いいから」
ロロが伏黒の影へ踏み込むと、伏黒はひらりと身をかわす。
「また逃げた!」
「踏まれたくないからな」
「子どもみたい」
「言い出したのはロロだろ」
そう言いながらも、伏黒は歩く速度を落としてくれる。あと少しで届く。そう思うたび、伏黒は半歩だけ前へ出る。絶妙に捕まらない。
「ねぇ、少しくらい勝たせてよ」
「嫌だ」
「大人気ない」
「勝負なら手は抜かない」
悔しくて頬を膨らませると、伏黒は珍しく小さく笑う。その笑顔を見たくて、ロロは何度も追いかけた。何度目かの挑戦で、ようやく伏黒の影を踏んだ。
「やった!」
両手を上げて喜ぶロロを見て、伏黒は肩をすくめる。
「満足か」
「うん!」
すると伏黒はロロの前へ回り込み、静かに足元を見た。
「今度は俺」
「え?」
気づいたときには、伏黒の靴がロロの影を踏んでいた。
「捕まえた」
その低い声に胸がどきりとする。
「これでおあいこだね」
「違う」
恵は首を横に振る。
「ロロは影を踏んだだけ」
そう言って一歩近づく。
「俺は、ロロを捕まえた」
影を踏んだまま、そっとロロの手を握る。指先が触れ合っただけなのに、心臓がうるさい。
「もう逃がさない」
ぶっきらぼうなのに、どこまでも優しい声だった。ロロは照れ隠しに笑う。
「影踏みって、こんなルールだっけ?」
「今日からだ」
そう答えた伏黒は、繋いだ手を離さない。夕焼けの道には、寄り添った2人の影。今度はどちらも踏まれることなく、並んで同じ方向へ伸びていた。