第5章 伏黒恵
【ムッツリ】
「ねぇ、ロロ」
寮のリビングでジュースを飲んでいたロロに、釘崎がこそこそと手招きした。
「なに?」
「アンタさ、伏黒に抱きしめられたことある?」
「えっ!?」
思わず声が裏返る。
「ない、けど…」
「やっぱり。あいつ絶対ムッツリよ」
「また変なこと言ってるのか」
タイミング悪くリビングへ入ってきた伏黒が、冷めた目を向ける。
「変じゃないわよ」
釘崎は腕を組み、得意げに言い放った。
「普段は仏頂面。でもロロが他の男と話してると、さりげなく間に入る。荷物は黙って持つ。寒そうなら自分の上着を貸す。なのに好きって言わない!」
虎杖が「確かに!」と笑う。伏黒の眉間にしわが寄る。
「…偶然だ」
「偶然で毎回?」
「任務だからだ」
「任務で恋人つなぎする?」
「してない」
ロロが小さく手を挙げる。
「えっと1回だけ、人混みではぐれそうになった時に」
「ほら!しかも指までしっかり絡めてるじゃない!」
「…覚えてない」
「嘘。耳真っ赤」
「赤くねぇ」
ロロがそっと顔を覗き込む。
「恵?」
至近距離で名前を呼ばれ、伏黒は目を見開いた。
「…近い」
「ごめん」
離れようとした手首を、伏黒が無意識に掴む。部屋が静まり返った。釘崎はにやにや。虎杖は「おぉ…」と小さく声を漏らす。ロロだけがきょとんとしていた。伏黒は数秒遅れて、自分が手を握っていることに気付く。
「あ…」
慌てて離そうとした瞬間、ロロが優しく握り返した。
「私は繋いでてもいいよ」
その一言で伏黒の思考は真っ白になった。耳どころか首筋まで真っ赤になる。
「ほら見なさい!」
釘崎は勝ち誇ったように笑う。
「ムッツリじゃない。好きな子の前だと全部顔に出るタイプね!」
伏黒は観念したように額を押さえ、小さくため息をついた。
「…頼むから、もう放っといてくれ」
「無理。今日は徹底的にいじるから!」
釘崎と虎杖の笑い声が響く中、伏黒は困ったようにロロを見る。ロロが微笑むと、伏黒は照れ隠しに小さく咳払いをして、誰にも聞こえないくらいの声で呟いた。
「…そんな顔されたら、我慢できなくなる」
その言葉だけは、ロロにしか聞こえなかった。