第5章 伏黒恵
【涙脆い】
「…また泣いてる」
伏黒はため息をつきながら、ハンカチを差し出した。ロロは慌てて涙を拭く。
「だ、だって…!子猫がお母さん猫と再会して…」
「動画だろ」
「でも、嬉しくてぇ…」
任務では冷静な呪術師なのに、日常では驚くほど涙脆い。綺麗な夕焼けを見ても泣く。卒業ソングを聞いても泣く。誰かの幸せな話を聞いても泣く。そのたびに、伏黒は無言でハンカチを差し出すのが日課になっていた。
ある日、任務を終えて高専へ戻る途中。ロロは、助けた少年が母親に抱きつく姿を見て、また目を潤ませる。
「よかったぁ…」
ぽろぽろと涙をこぼすロロに、伏黒は小さく息をついた。
「…泣きすぎ」
「ご、ごめん」
「謝るな」
そう言って、伏黒はロロの頬を親指でそっと拭う。
「ロロが泣くと、俺まで苦しくなる」
思わぬ言葉にロロは目を丸くした。
「…恵」
「だから」
少しだけ耳を赤くしながら、伏黒は視線を逸らす。
「嬉し涙なら、俺の前だけで泣け。ちゃんと受け止めるから」
ロロはまた涙ぐんでしまう。
「…っ」
「おい」
「恵が優しいこと言うから…!」
「それで泣くな」
困ったように笑った伏黒は、そっとロロを抱き寄せた。
「今日は好きなだけ泣け。その代わり、泣き止むまで離さない」
ロロは伏黒の胸に顔を埋め、小さく頷く。
「…うん」
伏黒は照れ隠しに空を見上げながらも、腕だけは最後まで緩めることはなかった。