第5章 伏黒恵
【まだ高校生】
初めてのキスから数日。あの日のことを思い出すたび、ロロは顔が熱くなっていた。
「恵、おはよう」
「…おはよう」
返事は変わらない。でも、目が合うとほんの少しだけ視線を逸らす。絶対、意識している。そう思うと可笑しくなって、ロロは小さく笑った。任務を終えた帰り道。人気のない公園を二人で歩いていると、ロロはふと立ち止まる。
「ねぇ、恵。この前のキス、後悔してる?」
その問いに、伏黒は驚いたように目を見開いた。
「…なんでそう思う」
「だって、あれから少し距離がある気がして」
少しだけ俯くロロを見て、伏黒は静かに息を吐く。
「違う」
一歩近づき、ロロの前に立つ。
「距離を置いたんじゃない。近づきすぎたら、たぶん我慢できなくなる」
思いもよらない言葉に、ロロは目を丸くする。
「ロロが笑うたびに、またキスしたくなる。手を繋ぐだけで満足してたのに。1回したら、欲張りになる」
照れたように頭をかきながら続ける。
「だから少し落ち着こうとしてた」
ロロは思わず笑ってしまう。
「恵でもそんなこと思うんだ」
「俺だってまだ高校生だ」
ぶっきらぼうに言いながらも、その表情はどこか優しい。ロロは一歩近づき、伏黒の制服の袖をそっと掴んだ。
「じゃあ、我慢しなくていい日も、あってもいい?」
「…それ、本気で言ってるのか」
「うん」
しばらく見つめ合ったあと、伏黒は優しくロロの髪を撫でた。
「今日は、我慢しない」
そう言って、そっと額を合わせる。
「好きだ」
短い一言。でも、それだけで胸がいっぱいになる。
「私も、大好き」
「…目、閉じろ」
ロロが素直に目を閉じると、伏黒は優しく唇を重ねた。触れるだけの穏やかなキス。離れたあとも、お互い照れ笑いが止まらない。
「また笑ってる」
「だって幸せだから」
その言葉に、伏黒は照れ隠しのようにあなたの手を握る。
「…そういうこと、簡単に言うな」
「なんで?」
「もっと好きになるだろ」
繋いだ手は最後まで離れることはなく、二人は同じ歩幅でゆっくりと歩いて帰った。