第4章 釘崎野薔薇
【空】※死ネタ、男主
「明日、晴れるかな」
帰り道、釘崎が空を見上げた。
「晴れるんじゃない?」
「じゃあ、明日も一緒に見よ」
笑っていた。それが最後の約束になるなんて、あのときの虎太郎は知らなかった。翌日。空は、どこまでも灰色だった。隣には、誰もいない。
「…野薔薇」
呼んでも、返事はない。いつもならすぐに、「朝から辛気臭い顔すんなって」そう言って笑うはずなのに。何度呼んでも、あの声だけは戻ってこなかった。ふと、最後に聞いた言葉を思い出す。
『私がいなくなっても、ちゃんと空見なさいよ』
「…そんなの、無理だよ」
喉の奥が震えた。
「一緒に見るって言ったじゃん」
返事の代わりに、冷たい風が頬を撫でる。その風さえ、釘崎が最後に触れていったような気がして、余計に苦しかった。
「…ずるいよ、野薔薇」
空を見上げる。青を探す。けれど、どれだけ待っても雲は晴れない。
「俺、まだ…野薔薇に話したいこと、いっぱいあるのに」
好きだった。もっと一緒にいたかった。くだらないことで笑って、喧嘩して、それでも翌日には隣にいてほしかった。そんな当たり前が、もう二度と戻らない。
「…明日も見るから」
涙を拭う。
「だから、いつか晴れたら一緒に見てよ」
もちろん、返事はなかった。それでも歩き出す。振り返らない。振り返れば、そこに釘崎がいる気がしてしまうから。見上げても、青い空はなかった。ただ、雲の向こうにいるはずの釘崎を想いながら、今日も釘崎のいない明日へ歩いていく。