第4章 釘崎野薔薇
【デパート】※男主
休日のデパートは人でいっぱいだった。
「人混みってほんと苦手」
釘崎は眉をひそめながらも、目当ての店へ一直線に歩いていく。
「ほら、ぼーっとしてると置いてくわよ」
「待ってって」
虎太郎は苦笑しながら後を追った。そのとき、小さな男の子が泣きながら走ってきて、勢いよく虎太郎の足に抱きつく。
「パパぁ!」
「えっ!?」
虎太郎も釘崎も固まる。男の子は顔を上げると、あれ?と首をかしげた。
「…ちがう」
今にも泣き出しそうな顔を見て、虎太郎はしゃがみ込む。
「大丈夫。お父さんを一緒に探そう」
すると釘崎が男の子の前にしゃがみ、はっきりした声で言った。
「名前は?」
「…ゆう。」
「よし、ゆう。お姉さん達についてきなさい」
男の子は素直に頷き、釘崎は自然に手をつなぐ。
「意外と子どもの扱い上手なんだな」
虎太郎が感心すると、釘崎は鼻を鳴らした。
「困ってる子を放っておけないだけ」
サービスカウンターへ向かう途中、男の子が2人を見比べる。
「ねぇ」
「ん?」
「お兄ちゃんがパパじゃないなら、お姉ちゃんはママ?」
「はぁ!?」
釘崎は思わず大声を上げた。
「違うわよ! なんでそうなるの!」
虎太郎は笑いをこらえきれず吹き出す。
「笑うな!」
肘で軽く小突かれ、さらに笑ってしまう。その様子を見た男の子は、にこっと笑った。
「でも、2人とも仲良し」
「そ、そんなんじゃない!」
釘崎は顔を真っ赤にしてそっぽを向く。ちょうどその時、父親が駆け寄ってきた。
「パパ!」
男の子は勢いよく飛びつく。父親は何度も頭を下げた。
「本当にありがとうございました」
「次はちゃんと手をつないどきなさい」
帰り際、男の子が笑顔で手を振った。
「バイバイ、お兄ちゃん! お姉ちゃん!」
そして最後に、いたずらっぽく付け加える。
「未来のパパとママ!」
「だから違うってば!」
デパート中に響く釘崎のツッコミに、周囲から小さな笑い声が漏れる。虎太郎は笑いながら荷物を持ち直した。
「でも、そういう未来も悪くないかも」
「…ば、バカ!」
真っ赤な顔で背中を叩く釘崎だったが、その足取りはどこか嬉しそうだった。