第1章 五条悟
【弱音】※学生五条
任務を終えたロロは、珍しく1人で空を見上げる五条を見つけた。
「五条先輩?」
声をかけても、五条はすぐには振り向かない。
「昔はさ」
五条がぽつりと呟く。
「誰が傷つこうが、誰が離れていこうが、全部仕方ないって思えてた。最強ならそれくらい、割り切れなきゃ駄目だって」
ロロは何も言わず、隣に立った。
「でも、ロロが来てからおかしくなった」
五条は自嘲するように笑う。
「任務に行けば無事を考える。連絡が遅ければ落ち着かない。怪我をして帰ってきたら、笑って誤魔化してても内心は冷静じゃない」
五条はゆっくりロロを見る。
「こんな俺にしたのは、誰?」
冗談めいた口調なのに、笑っていなかった。ロロは少し困ったように笑う。
「私ですか?」
「そう。ロロのせいで、初めて怖いものができた」
最強の男が口にするには、似合わない言葉。
「失うことが怖い」
ロロはそっと五条の手に触れた。
「五条先輩は、十分頑張ってますよ」
「頑張ってる?」
「全部1人で背負おうとしてます」
五条は目を閉じ、小さく息を吐く。
「…そうかもね」
少しの沈黙。やがて五条はロロの手を握り返した。
「勘違いしないで。ロロを縛りたいわけじゃない」
その声は穏やかだった。
「ロロにはロロのやりたいことがある。任務も、夢も、全部大事にしてほしい」
「じゃあ、さっきの言葉は?」
五条は照れくさそうに笑う。
「弱音」
「最強でも弱音吐くんですね」
「ロロの前だけだよ」
その答えに、ロロは思わず笑みをこぼした。
「こんな俺にしたのはロロだ。でも、そんな自分も案外嫌いじゃない」
その横顔は少しだけ弱く、そして誰よりも人間らしく見えた。