第3章 両面宿儺
【我が子】※平安時代の宿儺
平安の夜。月明かりが御簾の隙間から差し込む屋敷で、ロロは眠れずにいた。
「…まだ起きているのか」
低い声に振り返る。そこには宿儺がいた。
「父様、眠れないの」
「怖い夢でも見たか」
「ううん。ただ、父様のところに来たかったの」
宿儺は少し黙ってから、自分の隣を指した。
「来い」
ロロが近づくと、宿儺はその身体を軽々と抱き上げ、自分の膝へ乗せる。ロロは嬉しそうに笑った。
「今日ね、庭でお花を見つけたの」
「ほう」
「父様にあげる」
差し出された小さな花を、宿儺はじっと見つめる。
「…俺に?」
「うん。父様、いつも怖い顔してるから」
「…余計なことを」
そう言いながら、宿儺は花を受け取った。
「嫌だった?」
「そうは言っていない」
花を捨てることなく、文机の端へそっと置く。ロロはそれを見て笑った。
「父様、優しいね」
「俺が優しい?」
「私には優しいよ」
宿儺は答えなかった。代わりに、大きな手でロロの髪をゆっくり撫でる。
「…眠くなったか」
「うん」
「なら寝ろ」
ロロは宿儺の衣を握る。
「父様」
「なんだ」
「ずっと一緒にいてくれる?」
宿儺の目が細くなる。
「当然だ」
「ほんと?」
「俺が嘘をつくと思うか」
「思わない」
ロロは安心したように胸元へ顔を埋めた。やがて小さな寝息が聞こえてくる。宿儺はその寝顔を見下ろし、静かに呟いた。
「…随分と無防備な奴だ」
誰もが恐れる男。けれど、我が子を撫でる手だけは驚くほど優しい。
「ロロに手を出す者がいるなら、俺が許さん」
眠るロロには届かないほど小さな声。その夜、宿儺はロロの手を握ったまま、朝まで離さなかった。