第3章 両面宿儺
【臨月】※平安時代の宿儺
「…っ」
夜明け前、下腹部を締めつけるような痛みに、ロロは小さく息を呑んだ。眠っていたはずの宿儺は、そのわずかな気配だけで目を開ける。
「どうした」
「…たぶん、始まった」
そう答えた瞬間、また強い痛みが押し寄せる。思わず宿儺の袖を掴むと、宿儺はすぐにロロの身体を支えた。
「立てるか」
「少し待って…」
震える声に、宿儺は大きな手で背中をゆっくり撫でる。
「慌てる必要はない。息を整えろ」
普段の威圧的な口調とは違う、静かで落ち着いた声だった。丸く大きくなったお腹へ目を向けると、小さく胎動が返ってくる。
「もうすぐ会えるね…」
ロロが微笑むと、宿儺も腹へそっと手を添えた。
「暴れるな。ロロが苦しむ」
まるで言葉が届いたように、お腹の子は静かになる。
「ふふ、宿儺の声ちゃんと分かるんだ」
宿儺は何も答えない。ただ、その手だけは離さなかった。再び痛みが押し寄せ、ロロは宿儺の腕へ額を預ける。
「怖い…」
その一言に、宿儺は迷わずロロの肩を抱いた。
「恐れるな」
低い声が耳元で響く。
「ロロは1人ではない。俺がいる」
その言葉だけで、不思議と涙が溢れた。
「もし私に何かあったらー」
「ない」
宿儺は即座に言い切る。
「そのような未来は俺が認めん」
4つの瞳が真っ直ぐロロを見つめる。
「ロロも、子も、必ず無事だ。だから最後まで俺を信じろ」
ロロは涙を拭い、小さく頷いた。
「…うん」
宿儺はロロの額へ優しく口づけを落とす。
「行くぞ」
その声には、呪いの王としての威圧ではなく、1人の夫として、そして父になる者としての決意が宿っていた。