第3章 両面宿儺
【妻】※平安時代の宿儺
真夜中の静かな屋敷。月明かりの下で、ロロは宿儺の隣に座っていた。いつもなら周囲を寄せ付けない宿儺が、今日は珍しく何も言わずに空を眺めている。
「宿儺様」
「なんだ」
「今日は静かですね」
「ロロがいるからだ」
思いがけない返事に、ロロは目を丸くする。
「私?」
「…あぁ。ロロといる時だけは、無駄なことを考えずに済む」
それは宿儺にとって、何より素直な言葉だった。誰にも弱さを見せない男。誰にも心を許さない男。そんな宿儺が、ロロの前では少しだけ違う。
「ありがとうございます」
そう微笑むと、宿儺はロロを見つめた。
「ロロはいつも笑うな」
「宿儺様が帰ってきて下さるからです」
その言葉に、宿儺の表情がわずかに和らぐ。
「本当に変わった女だ」
「褒めていますか?」
「好きに受け取れ」
ぶっきらぼうな言葉。けれど、その手は優しくロロに触れる。そして、宿儺はほんの一瞬だけロロへ口づけを落とした。乱暴でも、気まぐれでもない。大切なものを確かめるような、静かなものだった。
「…宿儺様」
「なんだ」
「今のは?」
「言葉にしなければ分からんか」
いつものような不敵の笑み。赤い瞳には隠しきれない想いが浮かんでいた。
「ロロは俺の妻だ」
「はい」
「ならば、これからも俺の隣にいろ」
月夜の下。恐れられた呪いの王が、ただ1人にだけ見せる優しさ。それは誰にも知られることのない、2人だけの約束だった。