SW異銀河から落ちてきた言葉の通じない謎の親子を保護しました
第5章 別れ、そして銀河の彼方へ
星子は、その分厚い一冊の使い古されたノートをそっと手に取り、愛おしむように最初のページをめくった。
一番最初のページには、文字を教え始めた頃、驚くほど不器用に鉛筆を握り直したディンが、震える手で何度も書き直した歪な『あ』や『い』の文字が並んでいた。
まるで幼い子供が書いたような、拙くて大きな文字だ。
しかし、ページをめくるごとに、文字は少しずつ小さくなり、綺麗にマス目の中に収まり始めていく。
さらにめくると、しっかりとした筆跡で『りんご』や『むすこ』といった単語が並び、簡単な計算の数字が迷いのない線で正しく書き込まれていた。
パラパラと紙が擦れる音とともに、三人がこの居間で過ごした約2年という愛おしい時間が、鮮やかに蘇ってくる。
そして、最後のページ。
そこには、ディンの力強い筆跡で、何かメッセージが、まっすぐに書き残されていた。
『せいこいままでありがとう。どこにいてもおれたちはわすれない。』ディンらしい、武骨で誠実な最後のメッセージだった。
涙がポロポロとノートの上にこぼれ落ちる。
さらにそのページには、一枚のスケッチブックの紙が、綺麗に折りたたまれてそっと挟み込まれていた。
星子が震える手でその紙を広げたとき、ついに声を上げて泣いてしまった。
そこには、お世辞にも上手とは言えない、幼児の落書きのような絵がクレヨンで一生懸命に描かれていた。
ぐしゃぐしゃに塗られた真っ赤な丸がいくつも並んでいる。おそらく神社の赤提灯だ。
その下には、ねずみ色のクレヨンで塗りつぶされた、大きな人。その隣には、茶色の丸い塊を手に持った、耳が異様に大きな、緑とベージュの小さな生き物。そして、白い服と青いズボンの中くらいの人が、みんなで寄り添って並んでいた。
グローグーが、あの楽しかった初詣の夜を思い出して、一生懸命に描いた三人の絵だった。
「……ずるいよ、二人とも。こんなの残していくなんて」
星子はグローグーの描いた絵を胸に抱きしめ、激しく涙を流した。
二人は遠い銀河の過酷な戦場へと帰っていった。
もう二度と会うことはできない。
けれど、この新しい家具と、ノートに書かれた無骨な文字と、温かい絵がある限り、三人がここで家族のように暮らした約2年の絆は絶対に消えることはない。
窓の外では、四月の終わりの静かな星空が、優しくきらきらと輝き続けていた。
