第1章 夏灯りの約束
見て触ればすぐに分かる。この店の生地がどれだけ上等なものかは。
一反いくらするんだよ、と気にならなくはなかったが、特級術師である星也がどれだけ稼いでいるかは、本人に言われた通り分かっている。
だから、伏黒が腹を括るのに時間は掛からなかった。
「兄さまはどんなのを着るの?」
「詞織、まずは自分のを選ぶといい。恵はどれが詞織に似合うと思う?」
突然 話を振られ、伏黒は思わず渋面を作る。
「なんで俺に聞くんですか?」
いや、分かっていて聞いているのだ。
自分が詞織に好意を寄せていると。
「メグが選んでくれるの?」
「自分で選べよ。好きなモン着た方がいいだろ」
そう詞織に言うと、彼女は「んー」と生地を眺める。
そんな様子を、星也は一歩 引いたところで見ていた。
「んー……よく分かんない」
だろうな。
普段から詞織はあまりおしゃれに関心がない。
「気になるものもないか?」
星也も声を掛けてくるが、彼女はフルフルと首を振った。
「全部 綺麗で可愛い。でも、着てみたいのはよく分かんない」
詞織の視線を追うように、伏黒も生地に目をやる。そこで、ふと気になるものを見つけた。
淡い紫色に満月と桜を描いたデザイン。
まるで夜桜のようだ。
「これ?」
肩が触れそうな距離に思わずビクッとして、伏黒はさりげなく距離を取った。
「いいね。詞織に似合いそうだ」
「そう? 少し大人っぽくない?」
星也も混ざり、詞織と話が進んでいく様子に、伏黒は微かに口角を上げる。
「まぁ、いいんじゃねぇか」
そう言ってやると、詞織は一度 目を丸くして、ゆっくりと嬉しそうな笑みを浮かべた。
* * *