第1章 孤児院時代
「お前、それ」
毎日定刻に供されるみすぼらしい食事。
隣に座る少年は、手のつけられていないプレートを指差し、怪訝そうに眉を顰める。
「いらないのか?」
返事も頷きもしない○○に痺れを切らし、少年はプレートの中に手を突っ込んだ。
「じゃあ貰う」
○○は視線を右にずらし、少年の顔を視認する。
薄い蒼を湛え、隣の少女を気にした様子もなく黙々と食事の動作をする彼の名前を、○○は知っていた。
というのは、何故か知っていた、夢で視た、などというファンタジーで運命的なものでは当然無い。孤児院で広がる噂をたまたま耳にしただけである。
「ケフカ・パラッツォは嫌な奴だ」
「……あん?」
「そう、誰かが言ってた。噂で聞いた」
少年からしてみれば、少女こそが嫌な奴である。
数日前、不明瞭な理由でこの孤児院に預けられ(少年は口減しに捨てられたと踏んでいるが)、慣れない場所で自分の居場所を確保するため多少の横暴はしたかもしれない。
ただ、その理由もちゃんと存在する。
既に孤児院に長年いる餓鬼大将的な立ち位置の子供が、自分に対して理不尽な要求をしてきたからだ。
だからあの子供が大事にしていたらしいカンザシを、盗んで売って小銭にした。その金で古本屋に赴き数冊本を購入し、この孤児院とかいう閉鎖された空間で暇を縫っている。
今日もこの配給を食い終わったら大部屋へ戻り本を読む予定だ。
しかし、その深遠なる理由をこの女に話す義理もない。ので無視をしたのだが。
「私のご飯、たべたでしょ」
「恩着せがましい奴だな」
飯はお前が何も反応を示さなかったから要らないと思って食っただけだというのに。廃棄されるよりマシだろう。
まさかコレをダシにされるとは。
少年は渋々と、端的に理由を話した。
それ以上の会話は必要ない。そう判断したが。
「そっか、数日前に……」
「……?」
少女が意味深に黙るので、動かしていた手を止め向き直る。
「数日前、ちょうど帝国から、何人か引き抜かれたから」
補充ね、そう言いながら残りのスープを啜って、少女は立ち上がった。
ご馳走様、と小さく呟きそのまま霧のように消えていく彼女が、無性に気になる。
本日の予定は変更だ。読書ではなく、あの少女に知っていることを全て吐かせよう。
少年は単純な知的好奇心から、席を立って少女を追った。
