第8章 接触
『とにかく、お前に加護を与えるのはこの私だ』
「なぜ!? そんなの無理ですよ!」
『慌てるな。またこちらから接触する。この会話を漏らすなよ、』
また一方的に切られ、あなたは絶望的な面持ちで立ち尽くした。
これでは振り回されてるだけではないか?
こんなわがままな守護者がいるのだろうか。
自分は、騙されてるのでは。
「それか、力のある魔族にからかわれてるのかな…?」
うつむいていた顔を上げると、洗面台の鏡には、白髪で半分白眼の男が音もなく映り込んでいた。
あなたは唇を震わせて叫ぶ。
「きゃあああぁっ!! し、師匠! 何してるんですか! ここ女子トイレなんですけど!」
「失礼。さきほどあなたが尋常でなく急いでいる様子だったので、心配になりまして。……今、誰かと喋っていませんでしたか?」
黒ローブを前で閉めきったミザロは、淀んだ表情と口調で言った。
その場に冷気がなだれ込むような、肌を刺す存在感だ。
さっきまで和やかに話していた魔術師の姿は、もうなかった。
「いえ……そんなことはないです。……つい小屋に住んでたときの癖で、一人で考えをまとめることがありまして……気づかない内に、疲れがたまってるのかも。ははは」
言い訳のたびに心臓がキリキリと痛む。
誰よりもこの人にだけは、嘘をつくと良くないことが起きる気がした。
だが、ミザロはわざとらしいほど同情的な表情を浮かべた。
「そうだったんですか。かわいそうに。……顔が真っ青ですよ。さあ行きましょうさん」
「は、はい師匠」
ぎこちなく従うと、隣に付き添う彼はこんなことを言った。
「心配ですね。そうだ、医術師を紹介しましょうか。ぜひ診てもらってください。領内にいるんです」
「え! いやそんな、悪いですから。結界師の方にも会わせて頂いたばかりなのに」
それに、もし医者に診てもらったら、きっとすごい能力の人だろうし、守護者との関わりがバレるかもしれない。
ミザロは遠慮するあなたに対し、人形のように首を振り、うっすらと笑む。
「遠慮しないでくださいよ。私はあなたの師なんですから。そうでしょう? さん」
「はあ……」
あなたは彼に親しみを持って接していたことを、今このときだけは、少しだけ後悔していた。