第8章 接触
「どうしたんです、急に肩がこわばっていますよ」
「い、いや、あのすみません、師匠!」
あなたは荷物を素早くまとめ、彼に向かって勢いよくお辞儀した。
「ちょっとトイレに行きたくなっちゃって、今日はこのへんで失礼しますね。お疲れさまでした!」
「わかりました。場所は知っていますか?」
「任せてください!」
変な答えになりながら、あなたは足をもつれさせて走り去った。
騎士団領内を急いで移動し、本部の中層階にある唯一の女子トイレへと駆け込んだ。
ひんやりした清潔な空間だ。騎士団は本来女人禁制で、ここはゲスト用なため誰かが来る心配もない。
「はあっ、はあっ、守護者さま!? 今まで何してたんですか! あやうく存在を忘れるところでしたよ!」
『仕方がないだろう。そこは少々面倒な結界が多いのだ。今、誰と喋っていた?』
冷静に問われて、洗面台の近くで小声になった。
「魔術の師匠ですよ。優しい方で、時々教えてくれてるんです」
『師匠だと? 騎士団なんぞに染まりおって。体に異常はないか』
「別にないですけど……」
どうしていちいち敵対的なのか分からない。
気を取り直し、あなたは早々に核心へ持っていこうとした。
「でも自分だって魔族ですよね? そろそろ本当のこと言ってくださいよ。なぜ私に接触するんですか?」
『お前……なんだか声に自信が出てきたな。あの男に、加護を授けるなどと言われたか?』
会話が噛み合ってないのだが、彼女の指摘に鼓動が跳ね上がる。
自分のことは見えていないようだし、ここでの動向は本当に知らないようだ。
この人は、信用できるのだろうか?
ここでルドガーと一緒にうまくやっているあなたには、徐々に不信感が生まれていた。
「な、なんで知ってるんですか。ゼイラン様はいい人ですよ。ルドガーの主人だし、私達をほぼ認めてくれてるんです」
『それは良いことだがな、お前に加護を授けるのを、許すことはできん』
そのよく分からない立場の台詞に、唖然とする。
「いや許す許さないとかじゃなくて、彼はすごい立場の人なんですよ? 加護を拒否するとか出来るわけないでしょう。あなた何なんですか? 私の守護天使?」
彼女はまた答えなかった。不明瞭だが断定的なやり取りに、段々とイライラしてくる。