第8章 接触
その日、魔術師ミザロとの訓練を終えたあなたは、ホール内の長椅子で弁当を広げていた。
「私のまで用意していただいて、すみませんね。さん。とても美味しいです」
「よかったです~これだけお世話になっている師匠なんだから、当然ですよ」
黒ローブの白髪男性と、小柄な運動服姿の自分。
奇妙な組み合わせだが、不思議と打ち解けていた。
「その師匠っていうの、何なんでしょうか。私は弟子は取らない主義なんですが」
「だめですか? じゃあマスターにしようかな。ミザロさんは魔術師長でものすごい地位の方なので、グランドマスターのほうがいいですかね?」
「……師匠でいいです」
話を聞いていないあなたが提案すると、彼は諦めて遠い瞳をした。
くすっと微笑みながら彼を見やる。
「そういえば師匠、髪の色が戻ってきましたね。瞳も!」
「ええ。毛先だけ黒いでしょう? 目はまだ片目だけ青ですが、直に完全体になりますよ」
今は少しちぐはぐだが、魔力は体内の中央から末端に向かって宿ると言われ、感心した。
髪の長さによって増える魔力量も馬鹿に出来ないため、彼は肩まで伸ばしているようだ。
「ですがこの前、姪っ子に会ったらこの姿に泣かれてしまいましてね。一瞬染めようかと思いましたよ」
珍しくため息まじりに明かされて、あなたは仰天した。
「えっミザロさん、家族いるんですか?」
「いますよ。天涯孤独に見えましたか? 独身ですが実家はあります」
領内とはいえ、あんな古城の住処をもち、独特な世界観で暮らすミザロの庶民的な一面に、親しみがわいていく。
「いいなぁ、家族かぁ……羨ましいですね。私は何も覚えてないから」
しんみりと言うと、ミザロは横目で見つめた。
「ルドガーがいるでしょう」
「はい! 彼がいるのは一番嬉しいことです」
それだけは胸を張って言えた。
たとえ過去がなくとも、現在と未来はあるのだから。
思いがけぬ会話から幸運を再確認していると、突然、心臓がとまるかと思う出来事が襲った。
『――。聞こえるか?』
頭の中に鳴り響いたのは、守護者の女の声だ。
あなたは混乱し、目を泳がせる。
その体が微動だにしなくなったことに、ミザロが気がついた。