第4章 新たな始まり編
「すまん⋯⋯お前を問い詰めたいわけじゃない。監視しているわけでもない。ただ⋯⋯心配なんだ」
彼はそっとあなたのことを下ろし、爪をしまった大きな手で髪を梳いた。
あなたも彼を見上げたままだが、なんとも言えない。
申し訳なさもあるが、自分にもまだよく分からないのだ。
「ただ独り言喋っちゃっただけなの。心配しないで。私は元気だよ」
「⋯⋯それならいいが。ゲアト先生を呼ぼうか?」
「えっ!? ううん、全然大丈夫だから! 病気じゃないって!」
紳士的な粘流体種族の医師ゲアトには定期的にお世話になり、信頼もしている。
塗り薬のおかげで体も問題なく動けているし、最近は調子がいい。
けれどそれとは別に、今起きていることは秘密にしなければ。
ルドガーのあなたを疑うような瞳が辛かったが、やり過ごすしかなかった。
それからしばらくして、小声でまた守護者と喋ろうと試みるも、応答はなかった。
「なんなのよ、もう⋯⋯」
ルドガーといるだけで満足なはずなのに、自分を知っていそうな存在との接触が、心を揺らす。
記憶のないあなたのことを、きっと知る手がかりになるからだ。
「守護者⋯⋯もしかして、天使? 私は前は聖女とか⋯⋯? 特別な人間だったらどうしよう。⋯⋯いやいや、ここは魔界だから、もし聖なる存在だったら捕まるかもしれない⋯⋯」
ぶつぶつと考察していると、森の外から、なんだかぞっとする気配を感じた。
丸い窓の外を背伸びして見やると、今は夕方で、紫の空が濃くなり始めている。
だが突然、天候が急転するように、不気味な黒い渦が現れた。
あなたの肩をすくませ、足元におどろおどろしく近づいてくる感覚だ。
「な、なに⋯⋯?」
あなたは強烈な寒気を感じながらも、外の世界に引かれていった。
もしかして――。
会いに来てくれたのだろうか。
そう思い、肌に感じる脅威とは裏腹に、あなたは急かされるように小屋の扉をこじ開けた。
すると、暗くそびえ立つ木々の間から、短い銀髪の男がゆっくり歩いてくる。
目を凝らすまでもなく、異様な黒いオーラを放つ若い美男子だ。
彼は薄笑いを浮かべ、凍りつくような銀色の瞳であなたを捕らえたまま。
眼の前までやって来た。