第26章 彼女を知る者
後日、デシエを呼び出す。普段は行かない魔界の社交場へ、ともに降り立った。
一般の貴族には顔を出さず、裏口から特別室へ入り、重鎮たちと会話を交わす。
魔王へ謁見できる五大有力公爵家とは、また別格の家柄として、ヴェルガロン家は古くから知られている。
ネメニア自身も、古代の吸血族の血が入っている魔王一族と、古くから面識があった。
「デシエ。あいつを見てみろ」
彼女は舞踏会が行われているホールを、ガラス張りの特別室から見下ろしていた。
「どなたですか? ……ああ、もしかしてゼイラン公爵にもらわれた彼ですね」
「そうだ。まだ女の扱いが分かってないらしい」
呆れたように笑い、そのひと際体格の良い褐色肌の軍人を見やった。
ルドガーだ。
主人の護衛をする彼は直立し、ときおり貴族の女性にダンスを誘われても、無表情で断っていた。
そこを銀髪の美しい主人に注意され、不本意な様子で従う様子が見られる。
「元気そうですね。二十年前は、どうなることかと思いましたが」
「本当だな。あの若造の公爵め、突拍子もないことをしおって」
恨み節のネメニアだが、施設側の行き過ぎた指導という不手際があったため、当時は穏便に済ませた。
しかし獣たちの回収にかかった手間と費用は莫大なものとなり、同様の事態を二度と招かぬよう、職員らに徹底させている。
「あいつをの番にしてはどうか」
「…………はっ?」
デシエに無礼に聞き返されたが、ネメニアは不問とした。
「そ、それは……いったいどういうお考えでしょうか、閣下」
「あの男をよく見ろ。外見も中身も立派に成長しているようだが、まるで情緒を感じられない。戦闘種族だから仕方ないとはいえ……」
ネメニアが幼獣だったルドガーを見たとき、小さいながらも誇りと光るものがあると感じた。
なのでこうして時々、成長を遠くから観察することがあった。
「そうですね……でもさん、大丈夫でしょうか。あんな大男の獣を見ても……」
人間の少女であるあなたのことを、デシエは心配する。
だが主人のほうは、良い案であると思い始めていた。