第26章 彼女を知る者
そんな姿を、何週間にもわたって眺めている者がいた。
ネメニア・ヴェルガロンである。
彼女は透明になり、遠くから気配を消してあなたを見ていた。
家畜に愛情をかけるあなたと、それを迷いなく手にかける姿に、関心がわいていたのだ。
そんなある日、近くの森から火が出た。
山火事だ。
村に近づいてくるのを見ても、女の冷たく赤い瞳は変わらない。
一度目をつけた人間たちの様子を、ただ観察していた。
「……なっ、なに? 煙……? 皆、起きて!」
あなたは夜の寝室で異変に気付き、子供たちを起こす。
また火事なのか。
怯えた瞳で、皆は家の外に出た。
泣きだす子もいれば、わけもわからずぼうっとしている幼い子もいる。
「早く逃げて! あっちに!」
一番年上の子と一緒に、皆を村の外へ避難させる。
出来るだけ遠くに逃げ、この先の別の村に向かうように告げた。
「、どこに行くの!」
「先に行って、すぐに追うから!」
あなたは皆が去ったのを確認すると、動物たちの小屋に戻った。
扉を開けて中に入り、柵をひとつずつ開けて逃がそうとする。
「さあ早く、出て!」
煙が充満する中、一心不乱だった。
そうして作業をしているうちに、あなたは苦しそうにせき込み、その場に倒れ伏せた。
動物たちは駆けて出て行く。
ひとり残され、顔や手足にすすがつき、意識を失っていく。
そこに、黒いドレスに毛皮を着た女が現れた。
女には、空洞のような瞳があった。
しかし、感情を少し動かされたように、小さな少女を見下ろした。
「⋯⋯なぜこんなことをした? 早く逃げればいいものを」
そう言いながら、女はあなたを抱き上げ、外に出る。
そして、村の外に迫った火のなかへ入っていった。
火は女の体を避けるように道を開き、女はやがてその場から、こつ然と姿を消した。