第26章 彼女を知る者
その森が――通称、赤い森が偉大な影を祝福しているのを、初めて肌で感じ取った。
ぞわり、と肌を無数のミミズが這うような感覚がした。
頭ごと乗っ取られたように、魔術師の思考が支配されていく。
「……その者を離せ」
女の声が、遠くからした。
森の奥から響く声に、金髪オールバックの男は、かすかな力であなたを地面に置く。
すると体の強張りが解け、魔術師はそのまま視線を落としてひざまずいた。
「お前は行け」
「⋯⋯はっ。失礼いたしました。閣下」
男の表情は硬く沈んでいる。
あなたにも、現れた存在にも、そして痛めつけたルドガーにも目をくれず、その場から姿を消した。
ルドガーは四肢から血を流したまま、あなたに近寄ろうとする。
「…………」
彼は目から光を半分失い、力を振り絞ってあなたを求めた。
だが、その前に大人の女が現れた。
真っ白な肌に、赤い唇。
赤い瞳は大きく、目鼻立ちは恐ろしいほどに整っている。
黒くまっすぐな艶めく黒髪は、黒のヒールの足元まで長い。
胸元が大胆に開いた黒ドレスをまとい、長い脚でゆっくりと歩いてくる。
「…………っ」
ルドガーは、女がまとう冷たさと底知れぬ威圧感に、身がしびれるような感覚を覚えた。
彼女はあなたを切なげに見下ろしたあと、そばにしゃがみ込む。
そして、あなたを抱き上げた。
「やめろっ……」
ルドガーは、その場に立ち上がろうと力を入れる。
呼吸は荒く、片脚を引きずっていた。
女の赤い瞳は、彼のこともまた、思案するように眺めた。
「お前が……守護者なのか……?」
そう問われて、女は間を置いたあと、「そうだ」と告げた。
ルドガーの金の瞳が揺れ動き、力なく手を伸ばす。
「頼む、を奪わないでくれ。……俺から、奪わないでくれ……! ……頼む……っ」
彼がそんなふうに乞う姿は、初めてだった。
自分から、離れていく。
ずっと抱いていた恐ろしいイメージが、今こそ現実になるような気がした。
だが守護者は、吐息のようなため息を吐く。
胸の前のあなたをじっと見下ろし、こう言った。
「私がお前達を、引き離すはずがないだろう。お前も来るがいい」
そう言って守護者は、皆を同時に転移させた。