第2章 訪問客編
「あの、こういうことってあるんですか? 人間がここに現れたりとかって。ここって普通の世界じゃないですよね」
「うん⋯⋯ここは魔界だからね。きっと君は夜の森に入って、こちらの世界に紛れ込んでしまったんじゃないかな。原理は俺にも分からないよ。かなり珍しい話だ」
あなたは率直に話してもらい感謝したものの、やはり詳細は分からず肩を落とした。
魔界のことは知っている。おとぎ話の類だが、魔物や悪魔、吸血鬼や獣人などが住む世界のことだろう。
でも自分のことは、名前以外記憶がない。常識的な知識はあるのに。
そう説明すると彼に同情された。
名前を聞かれたので教えて、この虎獣人の名前も聞いておく。
「セヴァさんっていうんですね。ルドガーと仲がいいんですか?」
「俺はそう思っているけど、彼はどうかな。立場的にはこちらが上だが、ルドガーの能力は誰にも代えられないものなんだ」
ふっと笑いながら話してくれたが、彼はそろそろ上に戻ると言った。仕事の話はあまり漏らせないらしい。
「あのっ、ルドガーが帰ってきたらすぐに教えてください!」
「わかった。こんなところに閉じこめてすまないね。少しだけ辛抱してくれ」
最後まで親切だったセヴァは階段を上がっていき、あなたは自ら檻に入って鍵を閉める。
部屋は明かりが灯っているが、肌寒く毛布にくるまった。
「⋯⋯彼にも彼の生活があるんだもんね」
呟いて膝にため息を吐く。
まったく教えてくれなかったのはどうしてだろう。
強そうな男達だが、たくさん仲間がいるのも知らなかった。
あなたはしばらく目を閉じて、低い寝台に横たわっていた。
そういえばこの檻も、なんのためにあるのだろう。
人質を捕まえるため?
よく分からない。
自分も彼に見初められていなければ、ただの人質だったのだろうか。
「はあ。⋯⋯でも別に、怖くないもん」
二人のときの、段々感情豊かになってきたルドガーを思い出す。
また戻ってきたら、自分を抱き上げて「怖い目にあわせて悪かった」と謝ってくれるはずだ。
そんなふうにいつの間にか彼のことを信頼していた。