第12章 赤兎編
こうして午後の緩やかな時間が過ぎ、あなた達はそろそろ帰ろうとしていた。
だが、領内を囲む石壁の内側に、ある動物を発見した。
草むらからぴょんと顔をだす、短い耳の野兎だ。
「えっ、かわいい~うそ~兎がいるよ!」
あなたは初めて見る赤いふさふさの毛玉に近づいて行った。
「おい、駆けだすな、」
ルドガーの声が後ろから聞こえたが、もう手が伸びてしまい、それを思わず胸の中に抱き込む。
「見てみて、やだ~すっごい可愛い~っ。どうしたのおチビちゃん、お母さんは? 迷子?」
どこから入り込んだのか、丸い茶色の瞳にくりっと見上げられ、すでにあなたはメロメロである。
後ろからザクっ、ザクっと草を固い革靴で踏み近づいてくるルドガーは、それをぎろりと不快感たっぷりに見下ろした。
「……そんなものから手を離せ、けがらわしい」
「けがらわしいっ!? ちょっとちょっと、どうしてひどいこと言うの、かわいいでしょう〜」
あなたがしゃがんで抱っこしたまま振り返ると、ルドガーはなぜか小さな生き物に対し我慢ならないといった面持ちで、奥歯を噛んでいた。
彼は大型の獣だし、小動物が嫌いなのだろうか。
ふとそう思ったが、セロがのほほんと近づいてくる。
「お~めずらしいな、野兎じゃん。赤褐色かぁ。食べたらうめえかな」
「それはいいな、食うか。お前もたまにはいいこと言うんだな」
「ちょっやめてよ二人とも! こんな愛らしくか弱い兎になんてこと言うのよ!」
腕の中の赤兎は「きゅうきゅう」と危険を察知したのか、あなたの胸にもぐりこんで鳴く。
するとルドガーはそれを大きな手で掴み、向こうの地面に放り投げた。
「ぎゃんっ」
あなたは唖然として、彼の前で眉を上げて怒った。
「もう! いじわるしないで!」
「どちらがだ。お前のほうが意地悪だろ」
「は? なにが?」
大柄でたくましい体つきの精悍な男が、むすっとした顔をして間違いを認めない。
そんな二人を、セロはにやにやと眺めている。