第10章 事件編
「このような事態を招いてしまい、申し訳ありません、ジュリス隊長!」
「ああ。ターシャ、お前はむしろ彼女に術をかけてもらって助かったかもしれないぞ。思い知っただろう、魔術師の怖さを」
「はい……本当に、不甲斐ないです……」
反省して頭を下げる部下に、ジュリスはため息をつく。
「仕方がない、お前はまだ新人だ。何事も経験して分かることがある。――ではまず報告をしろ。今日は何をしていた? 昨日もだ」
ジュリスが間近に立ち、見据えるような顔つきで部下に命じると、彼は背筋を伸ばし顎を引いた。
「はっ。今日は午前中に組手、午後に剣技の訓練があり、その後装備品倉庫で整理をしていました。それから――」
彼はそこで言葉途切れ、混乱し始めたので、ジュリスは昨日のことについて尋ねる。
「昨日は休日だったので、街で買い物を一人でしていました。本屋に入ったあとに、後ろから声をかけられて――ええと、……すみません、そこからは覚えていません」
おかしなことに、それからどうやって騎士団領内の寮に帰ったかも記憶にないという。
だが今日起きてからは、あなたの前に現れるまで、普通に過ごしていたらしい。
ぞっとするような話だ。
ジュリスは思案顔で腕を組む。
「そうか……催眠の内容と辻褄が合っているな。ミザロ、俺には相手がそこまで腕の悪い魔術師には思えないんだが」
「そうですか? この程度誰にでもできますよ。私ならば、自分がここに入って直接さんを攫います。けれどその守護者も魔術師も、それが出来ないんです。こんな回りくどいことをするのは、力がない証拠では?」
儚げで陰鬱とした空気をまとった黒魔術師は、自信に満ちた声音で告げた。
だがあなたは、どこか腑に落ちなかった。
あの守護者の女の声はいつも気高く、ゼイランや騎士団を恐れている様子はない。
ただ、面倒ごとを避けるかのような振る舞いなのだ。