第10章 事件編
あなたはミザロに目配せし、彼も淡々とした表情で頷いた。
「これでおしまいです。色々教えてくださりありがとうございました、お疲れ様です。ではまた……」
自分の力的にもボキャブラリー的にもそろそろ限界だと悟り、あなたは終わらせようとかかる。
だがどう締めたらいいか分からず、適当に彼の顔を持ち上げて額に手を置いた。
「さあ目覚めなさい、ターシャさん。私のもとに、帰ってきてください――」
それらしく優しい声音で慈しみの瞳を向けると、彼はなんと、ゆっくり目を覚ました。
ぼうっとした眼差しが、あなたのことをまっすぐと映し始める。
「あ……ここは……どこですか」
「ふふふ……安全な場所ですよ。おかえりなさい、騎士さん」
芝居がかった様子で告げると、彼はなぜか頬を染め上げ、夢見心地でいる。
そばで見ていたミザロが、じろりとあなたを見つめた。
「今のは一体、なんですか」
「え。何ってなんですか。師匠。私合格しました?」
「……ええ。合格ですよ。素晴らしかったです。ですが……催眠術というより、カウンセリングのようでしたよ」
「ええっ、本当ですか? やだあ、そんなにあったかオーラ振りまいてたかな」
緊張の解けたあなたは照れて声を上ずらせる。
でも不思議だ。
この異様な高揚感はなんだろう。自分はすごいことをやってのけた、そんな気持ちが心の内から湧いてきていた。
だがその時。
外から大きな物音がした。
扉がすごい勢いで開かれ、立っていたのは息を切らして凄まじい形相をした巨体の男だった。
「ッ! 無事か!?」
「ルドガー!」
あなたは自然と笑顔になり、彼に駆け寄ろうとする。
すると真っ先に飛び込んできた彼の腕にさらわれる。あっという間に高く持ち上げられ、強く抱きしめられた。
「心配したぞ! 大丈夫なのか、何があった!」
「大丈夫だよ、もう平気。ありがとう、探してくれて」
心配性の彼の首に手をまわし、落ち着かせる。
その場には呆然とする若騎士、とくに無反応のミザロ、追ってきたジュリスもいたが、まずはこの時間が二人にとって必要だった。