第10章 事件編
「ほ、本当に私が催眠術やるんですか、師匠」
「はい。これは最終テストです。あなた、魔術師になりたいんでしょう? 合格すれば、私の弟子となることを正式に認めますよ」
「ええーっ! もうすっかり師弟だと思ってたのに! 仲良くやってたじゃないですか!」
「この世界はそんなに甘くありません。さあ呪文を教えますから。あなたの本気を見せてみなさい、さん」
押し問答をしていたが、だんだんとあなたの中で覚悟が決まっていく。
彼の弟子として勉強したいし、本気で魔術師にもなりたい。
そしてなにより、椅子に縛られた無関係の若騎士を見ていると、胸が詰まる。
こうなったのはすべて自分の責任なのだ。
「よし……。私だって出来るんだ。やりましょう師匠!」
頷き合ったミザロに、この場で呪文を教えてもらう。
こんな即席でうまくいくのかと思ったが、訓練で基礎魔法は覚えたし、呼吸や集中の仕方も教わっていた。
うなだれる彼の頭に手をかざし、短く区切られた呪文を詠唱していく。
体の中央から指先、口元、自らの額へと魔力を繋げていく感覚だ。
「……すぅー。……こんにちは、ターシャさん。聞こえますか。私です、です」
「…………はい。さん」
通じている。
しかも彼は、なぜかこちらの名前を口にした。
そう驚愕しつつも、冷静に話を続ける。
「あなたは悪い魔術師によって、眠らされてしまったんですよ。でも大丈夫、ちゃんと起こしてあげますからね。私の質問にさえ答えれば……。その魔術師を、見ましたか?」
「はい……」
「どんな人? 詳しく教えてください」
「灰ローブの……若い男……もう一人でかい奴がいた……ううっ……ああっ」
彼が肩を動かし怯え始めたため、あなたは焦る。
「大丈夫、大丈夫。もうここにはいませんから。安全ですよ。あなたは私が守ります。……その二人組とは、どこで会ったんですか」
「昨日……街に買い物へ行って……声をかけられた……」
やはり騎士団ではなく、外で標的にされたのだと判明した。
「そうだったんですね。怖かったでしょう。そこに女の人はいましたか? そして、二人組はなにか話していませんでしたか」
「……いない……。話は……していた……でも、分からない」
内容はそう簡単に開示されなかった。
けれど素直に教えてくれた騎士に、感謝をする。