第10章 事件編
明るい声で、あなたの後ろ姿に話しかけてくる。
「あれ、じゃないか。元気かい?」
振り向くと、薄灰の制服を着崩し、ポケットに手をいれたままの金髪の騎士が立っていた。
仕事が終わり、もう脱ぐ準備をしているのか、ネクタイをゆるめたシャツの首元が色っぽい。
「ジュリスさん!」
「すっかり元気になったって聞いて、安心したよ。……ん? 何やってるの?」
彼がそばにいた騎士に気づき、怪訝な顔をした。
「お疲れ様です~。あ、いや別に何もしてませんけど」
「……本当に? そいつは俺の隊の奴だよ。……おい、お前こんなところで何をしているんだ?」
タレ目がちの瞳を職務用に鋭くし、部下であろう者の前に立った。
しかし若騎士は無表情のまま視線も合わせない。
「聞こえてるのか? なぜこっちを見ない。上官の質問だぞ」
「あっあの~なんかこの人、ちょっと具合が悪いみたいで。それで私に話しかけてきただけなんですよ」
「君に……? なんて言われたの?」
言葉は優しいが、もう仕事モードの彼の警戒は消せなかった。
「そうですね……ちょっといいものがあるから見ませんかって」
「なんだって? いいモノがあるから、君に見せたいって……こいつがそう言ったのか?」
青い瞳をぐるりと困惑させたように、彼が聞き返す。
「いや、そういう妙な言い方ではなくてですね――」
「……ありえないな。おい、はっきり答えろ、彼女はルドガーの恋人だぞ? お前、自分が何をしているのかわかっているのか」
ジュリスは女たらしだが、部下への教育はしっかりしていて、正義感も強い魔族らしい。
あなたは普段なら感謝するところを、汗だらだらで止めようとした。