第10章 事件編
『そんな冷たいことを言うな……私だって、お前の身を案ずる者だ。けっして悪者ではない』
「な、なによ。そんなの信じられないし。だいたい、名乗りもしないで目的もあいまいにして、こっちはどうすればいいの? せめて名前だけでも教えてよ!」
そう突きつけると、彼女は静かにこう告げた。
『わかった。特別だ、お前には私の真名を教えよう。名は˝ネメニア˝という』
「……えっ? そうなの……? か、可愛い名前ですね」
とっさにそう答えると、彼女の鼻で笑う声が聞こえた。
『お前の無知は本当に尊いものだ。私の名は恐ろしい。いいか、誰にも告げるなよ。この言葉をあるものが使えば、殺せるほどの威力があるのだからな』
「えぇーっ!! 嘘でしょう、そんなこと教えちゃだめですよ!」
『お前だから教えたのだ。その妙な黒魔術師にも言うでないぞ。それと、記憶も読ませるな』
……え?
また変なことを言っていたが、あなたは彼女の迫真的な声のトーンから、その話を信じた。
とにかく守護者が言うには、重大な情報さえ漏らさなければ、あとはあまり気にしないらしい。
「あの、ネメニア様、それで加護のことですけど――」
『名前を言うなと言っただろう! お前は馬鹿なのか!?』
「すみません守護者さまっ! 言いませんから! ……それであのう、やっぱり加護をあなたにお願いするのは無理そうです。もう決まっちゃってるんで」
はっきりとそこだけは譲れない旨を伝えると、また頭の向こうで笑い声がした。
『それはお前が決めるといい。お前は私を選ぶことになるだろうがな。ふふふ……』
「どういうことですか!」
『また接触する。ではな』
「すぐにしてください!」
『わかっている、すぐだ。騎士をよく見ておけ』
そう言ってぷつっと会話は途絶えた。
あなたは久々に脱力する。
騎士……?
なんの関係があるのだろうか。
もう彼女の謎解きに付き合うのは、疲れ果てた。
あなたは食卓の椅子に腰を落とし、顔を突っ伏す。
「騎士さんが何なのよ……まったく接点ないんだけど」
だが話す前と比べて、今のあなたは、もうこうなったら守護者に付き合うしかないような気がしていた。