第10章 事件編
『……、私だ』
あなたはびくっと肩を動かして、瞬時に気がつく。
けれど視線をまっすぐに戻し、無視をした。
『聞こえないか? 私だと言っているだろう』
「…………」
凄みのある表情で答えないでいると、彼女のはあ、と疲れたようなため息が聞こえた。
その吐息の残酷さに、あなたはカッとなり口を開く。
「何ですか。私って誰ですか」
『ああ、やっと答えてくれたな。守護者の私だ』
「そんな人知りません。好きなときに声かけてきて、思わせぶりに喋って、また消えるんでしょう!」
まれにみる感情表現は、彼女をも驚かせたようだった。
『どうしたのだ、そんなに怒って。お前を放っておいたのは悪かったが、騎士団の防御が強化されていてな。お前にはわからんだろうが』
「…はぁっ? そのぐらい気づきますけど! 私だって魔力増大したんです、瘴気だって今は浴び放題なんですからねっ」
近況報告をすると、守護者は軽く驚いていた。
『すごいではないか。褒めてやろう。だが、ずいぶん時間がかかったな』
その尊大な言いぶりに、開いた口が塞がらなくなる。
「あのねえ! 私の苦労も知らないで、何様なの!? 全然気にしてなかったくせに! ゼイラン様はお見舞いに来てくれましたよ?
でもあなたは? ほんとうに守護者!?」
興奮して声を荒げるたびに、なんだが溜まっていた気分が発散されて心のボルテージが上がってくる。
その様子を、守護者も奇妙に受け取ったようだ。
『あの男が? それはいいことじゃないか。……だが、お前の様子がなにやらおかしく感じる……魔に染まりすぎたのでは』
その言葉だけは、ドキっとした。
確かに最近精神的に、力や感情が抑えられない時があった。
「……とにかく、もうほっといてください! 加護はゼイラン様に頂くし、もうすぐなんです! 邪魔しないで!」
そうはっきり口にすると、なぜだか胸がわずかに痛んだ。