第9章 お世話編
「どうしてそこまでする? さっさと瘴気から身を守ればいいだろう」
「……それは……この世界に来て、守られてるだけじゃ、足手まといになるから。可能性があるなら、強くなりたいんです」
彼は腕を組み直し、軽くため息を吐いた。
「言っておくが、。お前はただの人間だぞ? 魔力の量が増えようが、器は変わらん。それとも、自分が魔族であるような気がしているのか?」
その問いは嘲っているのではなく、本気で尋ねているようだった。
あなたは落ち着いて首を振る。
「いえ、そんな自信はまったくないんですが。……ほんとうにただの人間ですかね? フォロ先生とゼイラン様がそう言うなら間違いはないと思うんですけども、突然変異するなんてことは――」
「はっはっはっ! もしそんなことが起きるなら、恐ろしい擬態だな。俺達の眼をあざむいてそんなふざけた事をしでかすならば……お前の˝守護者˝は看過できない存在となる」
そう低い声を出して、彼はあなたに顔を近づけた。脅かすように銀色の瞳の瞳孔を、ぐわッと開かせた。
「きゃーーーーっっっ!! なんですかそれ!! ……あ、あなたも獣なんですかっ!?」
「クククククッ。俺を獣だと? いいか、知らないようだから教えてやる。俺は悪魔族だ」
……はっ?
あなたは冗談なのか分からない彼の言葉を、もう頭がいっぱいいっぱいなのでスルーすることにした。
「ゼイラン様……もういいですか。私、病人なんです。そろそろ……」
「まあ待てよ。まだ話が終わっていない」
「暇なんですか。今度でいいでしょ……」
だが、あなたはソファの布団の中でもぞもぞと動き、限界が近づいていた。
彼のさきほどの脅かしのせいで、下半身も余裕が失せてしまったのだ。
「ゼイラン様。誠に申し訳ございませんが、私をおトイレに連れていってはくださらないでしょうか…? 大変失礼なのは承知なのですが、ここで粗相をしたらもっと大変なことになるでしょうし」
下手に出て彼の瞳をうかがうと、彼はあっけに取られた様子で無反応だ。