第9章 お世話編
それからどのくらい時間が経ったのか。
一時間以上かもしれないし、一瞬だったかもしれない。
けれど、突然の物音で目が覚めた。
どん!と窓ガラスが割れる音がしたのだ。
あなたが体を強張らせて見上げると、カーテンが風ではためき、バルコニーの外観が室内から丸見えになっていた。
もっと驚いたのは、薄闇に不気味な気配で佇む、美しい銀髪の男だ。
彼の唯一無二の美麗さと冷たい表情に、息を呑む。
後ろから、急いで現れた看護師の男性の声が響いた。
「なっ……ゼイラン様! いかがされましたか…!?」
「ああ、窓を壊してしまった。この部屋だけやたらと面倒な結界が張ってあるな。……お前、フォロの助手だろ? 修復してくれ。そのあとは去れ」
「はっ、分かりました」
簡潔に命じたあと、彼はソファに寝転がったままのあなたの前で、床に腰を下ろした。
あぐらをかいて、じっと見つめてくる。
汗がだらっと流れるような状況で窓を見やると、看護師は手をかざし、光を発しながらガラスを見事に修復させていった。
素早く終わり、彼は礼をしてその場から転移魔法で去る。
あなたは呆然としたまま、こんなことを思った。
――本当に帰っちゃった。もう一回トイレお願いしようと思ったのに。
しかし顔に出せるわけもなく、恐る恐るゼイランに視線を戻す。
「あ、あのー。こんばんは、ゼイラン様。こんな夜更けにどうされたんでしょうか」
「お前の見舞いだよ。ずいぶん弱ってるみたいじゃないか」
彼のシャープな顔立ちが月の光に照らされ、憐れみとともに観察するような表情をした。
あなたは言葉に詰まる。彼の前ではルドガーの番として、いつも明るく元気な姿を見せたかった。
「はい、今はそうなんですけど、たぶん良くなっていきますので。そうだ、魔力も少しずつ増えてるんですよ、感じますか?」
「わからんな。俺の魔力はお前の五万倍はあるんでな。細かな差に気づくことはない」
「あっそうですか…」
彼との気が遠くなるような差にあなたもこの話題をやめることにした。