第9章 お世話編
「じゃあ行ってくる、」
「うん、いってらっしゃい。気をつけてね」
いつもの朝、玄関先で名残惜しそうにするルドガーが中々背中を向けない。
「通話魔石があれば、お前と連絡が出来るのにな」
「なにそれ? ああ、ゲアト先生が使ってたやつ?」
「そうだ。でも俺達にはあれを使うだけの魔力がないから、意味はないんだがな……でも、魔術師を介すれば――」
ルドガーが浮かない表情で、あまり現実的でないことに頭を悩ませている。
診察を受けてから数日。
あれ以来すっぱり塗り薬を使ってないのだが、驚くべきことに、何も症状が出ていない。
けれどルドガーはあなたに対してだけは、いつも心配症なのだ。
「大丈夫大丈夫、ほら見て、ジャンプもできるよ!」
「おいやめろ、そんなことされたら仕事に行けなくなるだろ」
彼に本気で止められてあなたは反省した。
彼の勤務状況を心配し、なんとか背中を押して送り出す。
そうして熱気が消えた寮の部屋に、ひとりになった。
腕を広げて呼吸をするが、本当にまだ元気なままだ。
「ふふふ……ルドガーは心配してくれてたけど、このままものすごい強い魔族になっちゃったりして!」
現金につぶやき、皆がこれから自分のことを褒めてくれるかも、と前向きな想像をしながら、今日も一日過ごすことにした。
だが、夕飯を作っているときに、気になることが起きる。
手にしていた野菜を、ぽろっと床に落としてしまった。
まるで力が一瞬抜けたように。
「……まさかね。やめてよ」
気を取り直して料理を完成させるが、あなたは念のため先に風呂に入り、居間で休んだ。
疲れもだるさもないが、ため息を吐く。
急に心細くなり、ルドガーの帰りを心待ちにしていた。
師であるミザロにもこのことは話し、訓練はしばらくの間おあずけだ。
魔法を覚えることは、日々のやりがいにもなっていたため、すごく残念だった。
ミザロはあなたのことを心配してくれて、様子を見てまた再開すればいいと言ってくれていた。
皆のためにも、早くこの試みを乗り越えたい。
そう思ったけれど、現実は残酷である。