第1章 出会い編
「はい終わったよ。時間がかかってごめんね」
「別にいい。⋯⋯お前は愛情深いメスだな」
「⋯⋯はい?」
きょとんとしたあなたに、顔を上げた彼が近づいてくる。
そして顔を傾け、唇を重ねてきた。
「んっ」
一瞬の出来事だったが、水の滴る彼の瞳がまっすぐ見つめてきて、あなたは急に恥ずかしくなる。
「なにするのっ? キスした! 今!」
「それがどうした。交尾をした仲だろ? お前が俺に触れてきたんだ。そういう合図だと思うだろう」
開き直った彼は二人を湯で洗い流し、あなたの止まらない文句もきれいに流そうとした。
そして浴室から出たあとは、あなたを立たせて支え、ちゃんとタオルで拭いてくれる。
ルドガーの顔色は変わらない。彼はこれまであまり表情がない。顔立ちは整っているが、黙っていると怖いぐらいだ。
それなのに、手つきは優しい。
問題行動は多いが、あなたに気をつけようとしているのは伝わる。
「⋯⋯ねえねえ。あのぬるっとした薬はなに? まさかあなたの出したものじゃないよね」
「あんなに出るか。俺は獣人じゃない。⋯⋯あの薬は、お前を瘴気から守るものだ。人間の体に塗れば良いと聞いた」
それをわざわざ、彼は作ってくれたらしかった。
瘴気とは悪い空気のことらしいが、よく分からない。
とにかくここは、本来あなたがいるはずのない場所なのだ。
「。お前の体がまだ弱いままなら、心配だな。医者を呼ぼう」
「お医者さん? いるの?」
「ああ。遠くにだがな。俺が行ってくる。お前はここで待っていろ。また無理をしたりするなよ」
彼はあなたの頭にそっと手を乗せ、あまり慣れた感じじゃなく撫でてきた。
温かみはあるが、心には不安がつのる。
「またいなくなるの? 早く帰ってきてね」
思わず本音をもらすと、彼の瞳が一瞬揺れ動いて見えた。
そして体はぎゅっと分厚い体に抱きしめられる。かと思えば、かなり高いところまでふわっと浮き上がった。
「きゃあっ、怖いってば!」
「安心しろ。すぐに帰る。お前の病気を治してやるぞ」
彼は闘争的な顔つきになり、自信ありげに言った。
――私って、病気なの?
そう思ったあなただが、今は彼を信じて頷くしかなかった。