【Dグレ】Twin Ray -灰の世界に響く歌- の短編集
第8章 【番外編】罪な男
「もう、知らない……っ!」
慌てて手を引っ込めた拍子に、ティファの肘がスプーンへ当たった。
かしゃん、と軽い音。
スプーンが机の縁を滑り、ラビのいない側の床へ落ちる。
「あ」
ティファが、身を屈めようとした。
身体を傾けた拍子に、柔らかなブラウスの襟元がふっと肌から浮く。
本人は、そんなことには少しも気付いていない。
少し離れた卓で、一人の視線がティファの動きを追った。
ラビの手が、ティファの肩を掴んだ。
「オレが拾う」
「え? でも」
「いいから」
有無を言わせない声だった。
ラビは椅子を引いて立ち上がり、ティファの背後を回って、落ちたスプーンへ手を伸ばした。
その広い背中が、ティファの座る席をすっかり覆い隠す。
そして、身を起こしながら――一度だけ、食堂の方へ視線を向けた。
翠の瞳が、ゆっくりと横へ流れる。
目が合った者から順に、視線が逸れていく。
紅茶の器へ。天井へ。隣の人間へ。
一人だけ、逃げ遅れた。
ラビは、その男を一秒だけ見て、それから何事もなかったように視線を戻した。
拾ったスプーンを布巾で拭い、机の端へ置く。続いて自分の盆を持ち上げると、元の席ではなく、ティファの反対隣へ移した。
「……今度はそっちに座るの?」
「ん。こっちの方が落ち着くんさ」
元の椅子に掛けていた上着も取り、空いていた椅子を引く。
少し位置をずらして腰を下ろしたラビの肩が、男達の卓とティファの間へ入った。
ティファが不思議そうに見ていると、ラビは手にしていた上着を、その肩へ掛けた。