第5章 【第四話】黒衣に宿る祈り
私は息を整え、刃を構え直す。
いけない。
今、向き合っているのはリナリーだ。
ラビに意識を奪われている場合ではない。
「ごめんなさい。少し、気が逸れたわ」
「大丈夫?疲れたなら、ここまでにしましょうか」
戦う者の鋭さを消し、リナリーがすぐに心配そうな表情へ戻る。
私は首を横へ振った。
「ううん。もう大丈夫」
そう答えた時だった。
鍛錬場の入口から、乾いた足音が響いた。
それだけで、空気が僅かに変わった気がした。
視線を向けると、長い黒髪の青年が立っていた。
神田だった。
黒の団服の裾には、薄く埃が付着している。腰に提げた刀の鞘が、歩みに合わせて微かに音を立てた。
神田の視線が、私とリナリーへ向く。
正確には、私の両手に顕現した白銀のレイピアへ。
その瞬間。
昨日、鍛錬場で覚えた違和感が、また胸の奥を掠めた。
理由は、やはり分からない。
ただ。
近くにいるほど、何かが引っかかる。
神田はしばらく無言でこちらを見ていた。
やがて、低い声が落ちる。
「……遊びなら、他所でやれ」