第5章 【第四話】黒衣に宿る祈り
次の瞬間。
リナリーの姿が、視界から消えた。
空気を破る鋭い音が、すぐ目の前で弾ける。反射的に右のレイピアを横へ走らせた。
直後、リナリーの蹴りが白銀の刃へ叩き込まれる。
腕へ響いた衝撃に、靴底が石床を滑った。
速い……!
「まだ行くわ!」
リナリーが床を蹴る。
宙へ舞い上がった身体が、信じられない角度で翻る。
上方から落ちてくる蹴撃を、私は二本のレイピアを交差させて受け流した。
白い光が、火花のように弾ける。身体を捻り、その勢いのまま踏み込んだ。
右の刃を、リナリーの脇腹すれすれで止めたつもりだった。
剣先が届くより早く、リナリーは軽やかに身を翻して私の間合いから抜ける。
石床へ着地した彼女と、数歩の距離を置いて向かい合った。
互いに息を吐く。
リナリーの瞳は、楽しそうに輝いていた。
「すごいわ。二本とも、本当に身体の一部みたいに動くのね」
旋律を途切れさせないまま、私は小さく首を横へ振った。想像以上だったのは、あの速さの方だ。
腕に残る衝撃を確かめながら、二本のレイピアを構え直す。
リナリーの蹴りには、迷いがなかった。
ただ速いだけではない。誰かを守るために前へ立ち、その身で敵を退けるために磨き上げられた強さ。