第5章 【第四話】黒衣に宿る祈り
鍛錬場へ足を踏み入れると、冷たい空気が頬を撫でた。
高い天井。硬い石床。壁際へ並べられた訓練用の武器。
昨日ここを訪れた時に聞いた、神田の刀が空気を裂く鋭い音。今朝の食堂で向けられた、冷たい声。
思い出しかけたそれを、息と一緒に吐き出す。
リナリーは団服の裾を整え、私から数歩離れた場所へ立った。
「本当に、軽く合わせるだけにしましょう。ティファは昨日着いたばかりだもの」
「分かったわ」
小さく頷き、私は深く息を吸った。
「――イノセンス、発動」
意識を喉の奥へ沈め、短い旋律を口の中で紡ぐ。
眠っていたニルヴァーナが、その静けさの奥で白い熱を帯びて目を覚ました。
深く。鋭く。戦うための形へ。
白銀の光が胸元から溢れ、両腕を伝って指先へ流れ込む。
光は細く伸び、輪郭を得ていった。
刃。柄。護拳。
やがて私の両手には、二振りの白銀のレイピアが顕現していた。薄暗い鍛錬場の中で、透き通るような刃が冷たい光を返す。
「……綺麗」
リナリーが、思わずというように呟いた。その柔らかな表情はすぐに消え、戦う者の眼差しへ変わる。
「私も行くわ」
彼女の足元へ、淡い光が走った。
黒い靴がイノセンスの力を帯び、団服の裾がふわりと揺れる。